大和路の写真家・入江泰吉、幻の戦前写真を発見
新たに見つかった入江泰吉の戦前作品のオリジナルプリント
大和路の風景を世界に知らしめた写真家、入江泰吉(1905〜92)が戦前に撮影した文楽の写真のオリジナルプリント1枚を、大阪市立大の研究グループが発見した。
1940年に大阪で開かれた「世界移動写真展」での優勝作品とみられる。入江の作品は約8万点残っているが、戦前の作品は45年3月13日深夜から14日にかけての大阪大空襲で焼失して30枚余りしかなく、専門家は「若き入江がその名声を高めた力作」と評価している。
縦25センチ、横20センチ。30年代に現像されたとみられ、セピアに変色している。大阪市にあった文楽座で人形遣いの名手、吉田文五郎が人形を操る様子を活写しており、裏に「入江泰吉」とスタンプが押されている。同展の図録から、第2期「春の部」で1等に輝いた組み写真「春の文楽」の1枚とみられる。
奈良市出身の入江は20歳で大阪・ミナミの老舗カメラ卸商「上田写真機店」に就職。写真の腕を磨く一方で、26歳で独立し、近くに同様の店を構えたが、大阪大空襲で全焼した。入江はフィルム数本しか持ち出せず、オリジナルプリントはすべて焼失したという。
発見した同市立大の研究グループは「上田貞治郎写真史料アーカイブ編纂室」。5年前から、上田写真機店が所蔵していた大阪の風景写真約4000枚の整理・分析を続けており、先月中旬、メンバーの1人がその中から見つけ、スタンプなどで本物と確認した。同店も空襲で焼失したが、写真は堺市に移して保管していたという。
入江泰吉記念奈良市写真美術館の説田晃大学芸員は「『春の文楽』のオリジナルはほかになく、貴重。様々なジャンルに挑戦した入江の原点を見るようだ」と話している。
(2009年3月14日08時13分ハハ読売新聞)